自治体・公共

北海道伊達市

庁内業務の効率化、ペーパーレス化と職員の働き方改革に寄与する文書管理・電子決裁システムを、最小限のコストで実現

文書管理・電子決裁システム構築事例 北海道伊達市

Microsoft 365ライセンスを有効活用し
前例にとらわれない承認フローによる業務改革を推進

過去の慣習にとらわれることなく、国が打ち出すデジタル化指針よりも一歩先行く自治体 DX を推進している北海道伊達市。庁内業務のさらなる効率化とペーパーレス化を目指し、文書管理・電子決裁システムの構築に臨みました。同市に CIO 補佐官として出向するなど、課題と業務内容を熟知している JBS をプロジェクトのパートナーに選定し、システム導入の大前提となる BPR(業務プロセス変革)を推進しつつ、既存の Microsoft 365ライセンスを有効活用することで、申請フローの迅速化、文書の検索性向上、印刷コスト削減などを最小限のコストで実現しました。

【自治体の概要】
自然の恵みと生活基盤が充実したコンパクトシティ

北海道の南西部、札幌市と函館市の中間に位置する伊達市は、北西には有珠山や昭和新山、南は噴火湾(内浦湾)に面しています。その地名は、1870年に仙台藩一門亘理領主伊達邦成とその家臣達の集団移住で開拓した歴史に由来しています。
産業面では、農業や水産業などの第1次産業を柱に、さまざまな産業を展開。農業は、とくに野菜が中心で稲作・畑作・酪農・畜産を展開し、水産業では、ホタテ貝の養殖を中心に秋サケ漁などが盛んです。

一方、大滝区(旧大滝村)の開拓は 1894年に永井五郎兵衛が優徳に住みついたことが始まりとされ、1896年に橋口文蔵により開拓されました。大滝区は森林産業や農業が盛んであるとともに、北湯沢温泉郷として毎年多くの観光客が訪れています。
また、病院、大型ショッピングセンター、福祉施設などの生活インフラが充実しており、道内でも雪が少なく、四季を通じて気候が温暖なことから「北の湘南」と呼ばれています。

【導入の背景】
「このままでは行政が立ち行かなくなる」という危機感から庁内業務の効率化を推進

伊達市 総務部DX推進課DX推進係 主査 内田 岳志 氏

伊達市 総務部DX推進課DX推進係 主査
内田 岳志 氏

ペーパーレス化の意義は、単に紙の使用量を減らすことだけではありません。何人にもわたって書類を回覧し、押印していた申請・承認のワークフローを電子化することで、決裁までのリードタイムを短縮し、ひいては業務をスピードアップします。また、紙で保管してきた文書を電子データ化することで、検索性が向上し、より効率的な活用が可能となります。

民間企業では、このようなペーパーレス化本来の意義を捉えた文書管理および電子決裁システムの導入が急速に拡大しています。

ところが多くの地方自治体に目を向けてみると、取り組みは大きく遅れているのが現状です。「前例踏襲」「今までどおり」を是とする庁内文化が、業務改革の足かせとなっているのです。

これに対し、過去の慣習にとらわれず、国が打ち出すデジタル化指針よりも一歩進んだ自治体 DX を推進しているのが北海道伊達市です。例えばスマートフォンなどのモバイル端末を利用して市税や各種料金などを納付できる電子決済(通称:スマートフォン決済)を、全国の自治体に先駆けて 2022年4月より導入。現在は、取引事業者を対象とした電子契約や電子請求の仕組みづくりにも取り組んでいます。

こうした施策と並行する形で、伊達市はすでに導入済みの Microsoft 365ライセンスを有効活用した文書管理・電子決裁システムを構築し、全庁展開に向けた取り組みを推進しています。背景には、「このままでは行政が立ち行かなくなる」という、地方自治体ならではの切実な危機感もありました。

伊達市 総務部DX推進課DX推進係 主査の内田 岳志氏は、「生産年齢人口の減少が大きな社会問題となっていますが、伊達市のような地方都市はさらに深刻です。職員の採用もますます難しくなっており、より少ない人員で庁内業務をしっかり回していける体制づくりが不可欠です。また、新たな人材に働き甲斐のある仕事として伊達市を選び、定着してもらうためにも、民間企業と比べても見劣りしないデジタル活用を推進し、旧態依然とした職場環境から脱却する必要があります」と語ります。続けて、「複数部署の合議による決裁のスピードアップ、書庫に保管された大量の紙ファイルから必要書類を探している手間と時間の削減、印刷コストの削減を目指しました」と解決すべき課題を示します。

【JBS 選定の経緯】
職員の意識改革を踏まえ、文書管理や電子決裁の大前提となる BPR を提案

2024年4月に始動した文書管理・電子決裁システム構築プロジェクトに際し、伊達市はそのパートナーに JBS を選定しました。

「JBS とは 2023年度に締結した『デジタル人材派遣受入に関する連携協定』のもと、エース級のデジタル人材に CIO 補佐官として出向していただき、3か年の DX 基本計画をともに推進している過程にあります。Microsoft 365の導入・活用も、そうした中で進めてきたものです。このように JBS との間には、伊達市の中の人として伴走していただいてきた信頼関係があります。一方で、ずっと市役所内部にいた人材では気づかない問題点への指摘をいただける点にも期待を寄せています」と内田氏は、その理由を示します。

具体的に伊達市が JBS のサポートを高く評価したのは、次の3点です。

1点目は、文書管理や電子決裁の大前提となる BPR の提案です。既存の業務プロセスをそのまま電子化したのでは意味がないと JBS は指摘しました。

「例えば担当者から係長、課長、部長へと紙の文書をリレーして押印しているワークフローが本当に正しいのか、JBS は疑問を投げかけてくれました。ただでさえ職員が減少していく中で、業務が遅延・停滞するリスクが高まっていることを鑑みれば、文書管理や決裁の根幹まで掘り下げて、そのあり方を再考する必要があります。『役位に関係なく、誰がどのタイミングで承認してもよい仕組みを構築し、円滑な業務遂行を図るべき』とする JBS の提案を受け、システム構築に臨むことになりました」(内田氏)

2点目は、職員のマインドチェンジの後押しです。

「職員の意識が変わらないことには BPR は成功しません。そこで JBS は、文書管理・電子決裁システム構築に着手する前段階で、主に幹部職員を対象とした勉強会やセミナーを実施し、前例主義が業務変革にもたらす弊害や、今後のデジタル社会で自治体が生き残る術などを説いてくれました」(内田氏)

3点目は、先にも述べた既存の Microsoft 365ライセンスを有効活用したシステム構築です。仮に文書管理・電子決裁の専用システムを別途導入して全庁展開した場合、巨額のライセンス費が発生するほか、過剰な機能を無駄にしてしまうおそれがあります。

「JBS は、Microsoft 365の標準機能をベースにすることで追加コストの負担を最小限に抑え、伊達市が等身大で活用できるシステムを提案してくれました」(内田氏)

実際に Microsoft 365の各サービスをどのように活用したのか、JBS クラウドソリューション事業本部 モダンワークプレイス 2部の久保田 龍は、次のように説明します。

「職員に申請・承認や文書閲覧・検索の UI を提供するアプリケーション本体を Microsoft Power Apps(以下、Power Apps)で構築しました。そして、この画面から起案された文書を Microsoft Power Automate(以下、Power Automate)に引き渡し、承認者として設定された関係者全員に Microsoft Teams(以下、Teams)を通じて通知することで、申請フローを自動処理します。加えて入力された文書は、Microsoft SharePoint Online(以下、SharePoint Online)の文書保管領域に保存されるため、迅速な検索・閲覧や長期的な活用が可能です。なお、このシステムを利用する職員のユーザー情報管理や認証は Microsoft Entra ID(以下、Entra ID)で行うこととしました」

  • 導入効果

    自治体向け文書管理(電子決裁)システムの構成イメージ

  • 【導入効果】
    職員の働き方改革とともに市政の意思決定のスピードアップに貢献

    文書管理・電子決裁システムは 2025年1月までに構築を終え、まずは同年 4月より総務部内での先行利用を開始しました。

    「申請フローがシステム内で完結するようになったことで、決裁のスピードアップ、文書の検索性向上、印刷コストの削減といった当初の目標はすべて達成できました」(内田氏)

  • 導入効果

  • さらに大きな期待効果として挙げるのが、場所や時間を問わない業務遂行への道を拓いたことです。

    「伊達市は全国でも珍しい飛び地を有している自治体で、伊達市域から離れた大滝区(旧大滝村)にも分庁舎(大滝総合支所)があります。Microsoft 365を活用した文書管理・電子決裁システムであれば、分庁舎の職員もわざわざ本庁に足を運ぶ必要はなく、クラウド上で文書の閲覧や、リアルタイムな申請・承認を行うことが可能となります。これは今後の職員のリモートワークを含めた働き方改革にもつながっていきます」(内田氏)

    この業務改革を率先しているのが、伊達市長の堀井敬太氏自身です。

    「文書管理・電子決裁システムはすでに市長にも公開されており、とくに操作方法を説明するまでもなく、日常的に活用されています」(内田氏)

    これに伴い市長決裁が必要な文書の確認から承認まですべてリモートから行えるようになり、伊達市の市政における意思決定は大きくスピードアップしました。

    【今後の展望】
    先行利用した総務部から全庁展開に向けた準備を開始

    集合写真

    まずは市長と総務部で先行利用を開始した文書管理・電子決裁システムですが、伊達市はこの仕組みをより早期に全庁に展開すべく準備を進めています。

    「すべての部署の職員が車座となって本音の意見や要望をぶつけ合う場を設け、皆の理解と納得を得たうえで、全庁のより良い BPR や働き方改革につながっていくシステムの活用と定着化を図っていきます」(内田氏)

    例えば、さまざまな公共工事の図面なども関連文書として管理できるようにするなど、システムの機能拡張に向けたアイデアが集まりつつあります。

    一方で伊達市は、JBS と共同開発した今回の文書管理・電子決裁システムの構成およびそのノウハウを、他の自治体にも提供していく体制を整えています。システムの知的財産権を伊達市と JBS が分け合いつつ、共同でプロモーションや販売にあたるというビジネスモデルによるものです。伊達市はこの新事業から得られた収益を、今後の DX に向けた原資の一部として活用していく計画です。

    かつての伊達市と同様に、紙をベースとした旧態依然の慣習に依存した文書管理や決裁に関する課題を抱え、なおかつ Microsoft 365ライセンスをすでに所有している自治体は全国に数多く存在すると思われるだけに、このソリューションが自治体ごとの特性を生かした業務変革の起爆剤となることが期待されます。

    北海道伊達市

    市長:堀井 敬太
    本庁舎所在地:北海道伊達市鹿島町20-1
    設置:2006年3月1日(大滝村と飛び地合併で新・伊達市が誕生)
    職員数:295名(2024年4月1日現在)
    概要:地方自治体
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