製造・ヘルスケア

株式会社デンソー

社員一人ひとりが業務で必要なアプリの開発者となる
「市民開発」のアプローチを推進し、DXを加速

Microsoft Power Platform に関する市民開発推進支援事例 株式会社デンソー

Microsoft Power Platform 活用を全社に拡大し業務変革へ挑戦
社内アプリ内製化が可能な市民開発者の数を増やし DX を推進

自動車部品や CASE 関連システムの開発・製造を行うグローバル企業として知られるデンソーは、「業務変革 with デジタル」をキーワードに、あらゆる職場で当たり前にデジタルを活用し、ビジネス効果を生み出していく DX を推進しています。この取り組みの柱となるのが、社員一人ひとりがアプリ開発者となることを目指す市民開発のアプローチです。伴走パートナーとして JBS を選定し、Microsoft Power Platform(以下、Power Platform)に関する市民開発推進支援策を採用することで、人材育成と拡大を図っています。

Microsoft Power Platform 活用を全社に拡大し業務変革へ挑戦 社内アプリ内製化が可能な市民開発者の数を増やし DX を推進

【事業概要】
「環境」と「安心」への取り組みを通してモビリティ社会に新たな価値を提供

デンソーは、1949年の設立以来、受け継がれてきた行動指針「デンソースピリット ― 先進、信頼、そして総智・総力の精神」のもと、先進的な自動車技術、システム・製品を提供し続ける、グローバルな自動車部品メーカーです。

近年ではサステナビリティマネジメントに注力しており、2050年の持続可能な地域・社会の実現に向け、その中間時点となる 2025年までのアクションプランとして新たな「デンソーエコビジョン 2025」を策定。特に、脱炭素社会の実現に向けた環境に優しい技術や交通事故ゼロを目指す安全性向上のための製品にも力を入れています。例えば、電動化技術や自動運転システムの開発を通じて、持続可能な社会の実現を目指しています。また、信頼性の高い製品と革新的な技術で、世界中の自動車メーカーから信頼されています。

【導入の背景】
デジタルを使いこなし自ら職場業務を改善できるデジタル開発人材を育成

デジタルを使いこなし自ら職場業務を改善できるデジタル開発人材を育成

DX を成功させるためには、組織全体の変革を促す IT サービスを迅速に展開していく必要がありますが、情報システム部門だけでそのスピードを維持していくのは困難です。生産年齢人口の減少に伴う人材不足は情報システム部門にも及んでおり、既存システムの維持・管理を中心とした定常業務をこなすだけでも手いっぱいです。新規システムの開発については、大量のバックログを抱えている企業も数多く散見されます。

そうした中で注目されているアプローチが市民開発です。市民開発とは、IT に関する専門知識を持たない一般ユーザーが、自部門の業務に必要なアプリケーションやツールを自らの手で開発する活動を指します。現場の業務を熟知しているユーザーが、その知識を生かしてアプリケーションを開発することで、より精度の高い問題解決が可能となります。従来のようなプログラミングのスキルをほとんど必要としない、ノーコード/ローコードの開発ツールの普及も市民開発を後押ししています。

この潮流をとらえ、自動車部品ならびに CASE(Connected:コネクテッド、Autonomous:自動運転、Shared & Services:シェアリング/サービス、Electric:電動化)や SDV(Software-Defined Vehicle:ソフトウェアによって機能や性能を定義した自動車)領域のシステム開発のグローバル企業として知られるデンソーも市民開発に乗り出しました。2023年に発足したデジタル活用推進部が旗振り役となり、市民開発に向けた取り組みを本格化させています。

デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 室長の出木場 省吾氏は、市民開発に向けた思いを次のように語ります。

「当社は『業務変革 with デジタル』をキーワードに、あらゆる職場で当たり前に、デジタルを活用した業務変革でビジネス効果を発揮できる状態を目指しています。その実現に向けて注力しているのが、デジタルを使いこなして自ら職場業務を改善できるデジタル開発人材の育成施策です。情報システム部門に依存することなくローコードツールを活用し、業務部門が自ら業務のデジタル化を実現することを市民開発と定義しており、これによって業務効率化や生産性向上を図るとともに、変化の激しいデジタルの活用に柔軟に対応できる人材を拡大していきます」

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 室長 出木場 省吾 氏

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 室長
出木場 省吾 氏

【JBS 選定の経緯】
トヨタグループの共有基盤として導入されていた Power Platform を活用

市民開発を推進するにあたり、デンソーは「2030年度までに、各職場内の 30%の人材を市民開発者に育てる」という目標を定めました。

「各職場では 10人程度を単位としたチームで活動する場面が増えています。このうち 3人が市民開発者となれば、仮に人事異動や退職などで一部が入れ替わったとしても、アプリケーション開発や業務変革を継続できるという想定です」(出木場氏)

そして市民開発を支えるローコードツールには、トヨタグループ内の共有基盤としてすでに導入されていた Power Platform を活用することとしました。

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長 伊藤 逸也 氏

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長
伊藤 逸也 氏

しかし、そこには大きな課題もありました。デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長の伊藤 逸也氏は、「デジタル活用推進部として市民開発の支援策を整えていましたが、Power Platform を構成する Microsoft Power Apps(ローコードアプリ開発ツール)、Microsoft Power Automate(ワークフロー自動化ツール)、Microsoft Power Automate for desktop(デスクトップ環境のタスク自動化ツール)、Microsoft Power BI(データ分析/可視化ツール)の 4つのツールに対するサポートがバラバラでした。各職場のユーザーの期待に応えきれておらず、質と量の両面から底上げすることが急務でした」と振り返ります。

デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長の林 光介氏は、「当初はツールさえ用意すれば、市民開発者は自然に増加していくのではないか、というほのかな期待もあったのですが、目標の 30%には遠く及ばず、5%程度で頭打ちになってしまったのが現実です」と補足します。

そこで外部の専門家の視点も取り入れた市民開発のあるべき支援体制を確立すべく、デンソーは共にこのプロジェクトに取り組むパートナーを求めました。そしてタッグを組むことになったのが JBS です。

「特定のツールに偏ることなく、Power Platform の各ツールならびに関連するMicrosoft 365のアプリケーションまで、横断的にサポートできる高い技術力とエンジニアの潤沢なリソースを有していることを重視し、ベンダーの選定にあたりました。そうした中で浮上したのが、以前から IT デジタル本部でもサポートをいただいていた JBS でした。マイクロソフト製品に関する卓越した知見と豊富な活用支援実績を有していることを評価し、『定着サイクルマネジメントサービス』を中心とした Power Platform に関する市民開発推進支援策を採用しました」(伊藤氏)

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長 林 光介 氏

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長
林 光介 氏

ソリューション提案にあたった JBS トヨタ事業本部 データソリューション&ディベロップメント部 1グループの本田 雅裕は、この市民開発推進支援策の概要を次のように説明します。

「Power Platform を効果的に活用するためには、お客さまの環境や業務を想定した利用方法の設計と浸透が必要で、JBS は Power Platformをユーザーに定着させるための計画立案から施策の実施、実行、結果分析までの PDCA サイクルを包括的にサポートします。定着サイクルマネジメントサービスは、このうちの計画立案に該当するもので、情報発信や教育支援、開発支援、ユーザーサポート(相談窓口の設置、コミュニティ運営など)といった具体策につなげていきます」

【導入効果】
Power Platform の事例に触れるイベント「パワプラ祭」に約1,300人の社員が参加

JBS とのパートナーシップのもと、デンソーにおける市民開発推進の施策は 2024年度に入って一気に拡大していきました。

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長 鈴木 将平 氏

株式会社デンソー デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長
鈴木 将平 氏

デジタル活用推進部 プロセス・人材変革室 デジタル人材開発課 担当係長の鈴木 将平氏は、「Power Platform の技術的な困りごとを解決する『パワプラクリニック』、業務課題解決と Power Platform 開発スキルの短期習得を目指す『パワプラジム』、Power Platform 全般に関する Q&A 対応を行う『パワプラ QA 窓口』、SPO サイトでの情報発信、Power Platform ユーザーコミュニティの運営などの活動を実施しています。これらの施策全般に JBS にサポートをいただいています。たとえばパワプラクリニックでは、24年度で延べ 1,700件以上のアプリ開発の相談に対応するなどユーザーからも好評を得ており、今後もレベルアップして継続していきます」と語ります。

  • Power Platform の事例に触れるイベント「パワプラ祭」に約1,300人の社員が参加

  • なかでも大きな盛り上がりを見せたのが、Power Platform の事例に触れるイベントとして 2024年10月3日~ 4日にわたって開催された「パワプラ祭」です。

    「市民開発に積極的に取り組まれている 6つの部署に協力いただき、計 17本の Power Platform 活用事例が出展されました。2日間の合計で各職場から約 1,300人の社員が来場し、Power Platform の認知・理解促進に向けた効果を上げることができました。また、JBS には会場内に出張設置した『パワプラなんでも相談会』の支援をいただいています。おかげで展示者も参加者も非常に前向きで、活発な意見が交わされるとともに、多くの笑顔が見られました」(伊藤氏)

    「こうして Power Platform による市民開発に触れたユーザーからは、もっと学んで自部署の業務改善に活かしたいといった声が生まれています。それを後押しする職場の理解も広がってきていると感じます」(林氏)

    結果として、各職場において市民開発にあたる人材は目に見えて拡大しています。

    「正式な測定方法が定まっておらず、私の肌感覚ではありますが、約 10% の社員が市民開発に乗り出し始めています。『2030年度までに 30%』という目標に向けて、着実に前進しています」(出木場氏)

    【今後の展望】
    ”社員を誰一人取り残さず” 社内アプリを使いこなせるデジタル活用人材の育成に注力

    集合写真

    今後に向けてもデンソーは、デジタルを活用した業務変革の実現と、変化に強いデジタル活用人材育成に向け、Power Platform だけにとどまらず、Microsoft ソリューション全体の活用を推進していく意向です。

    「社内アプリケーションに関して、全社員がしっかり使いこなせるデジタル活用人材になれるよう、2030年に向けて活動を続けていきます」(出木場氏)

    「部署によっては、直接 IT システムを利用する業務に携わっておらず、使いこなせていない社員もいます。だからこそ、市民開発のさらなる社内浸透やデジタル活用人材の育成のためには、新たな企業文化を醸成し、職場と社員のマインドチェンジを促していくことが不可欠です。その先には、会社として IT 人材を積極的に評価する制度など、さまざまな仕組みづくりも重要だと考えています」(伊藤氏)

    デンソーの取り組みは、市民開発に関心を持ちながらも、なかなか踏み出せずにいる企業にとって、大いに参考になるのではないでしょうか。

    「情報システム部門主導による開発から市民開発へのシフトには管理・統制面などさまざまな不安があると思いますが、それ以上にユーザー部門や会社全体にとってメリットがあります。あれこれ考えて悩むより、私たちと同様にまずは行動する『やらまいか』(※静岡県浜松市周辺の方言で「とにかくやってみよう」「やろうじゃないか」という意味)の精神で取り組んでみることをおすすめします」と、伊藤氏はエールを送ります。

    株式会社デンソー

    代表者:代表取締役社長 林 新之助
    本社所在地:愛知県刈谷市昭和町1-1
    設立:1949年12月16日
    従業員数:連結 162,029人、単独 43,980人
    事業概要:先進的な自動車技術、システム・製品を提供するトヨタグループの自動車部品メーカー
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